先日、お客様より
『A2017のアルミにしてあるアルマイトを剥離して、無電解ニッケルめっきをつけたいのですが?』できますか?と
お問い合わせがあったので、このご相談について今回はご紹介したいと思います。
アルマイトを剥離して、無電解ニッケルめっきをつけることは素材によっては可能なのですが、今現在、アルマイト加工されている製品の情報が必要になります。
それと同時に、無電解ニッケルめっきを施したとして、製品として使えるレベルの仕上がりになるのか、どうか?が一番の問題になると思います。
お客様に今回の製品のアルマイトを、無電解ニッケルめっきに付け替える理由をお聞きするとアルマイトに不具合があるとか、処理を間違えたと言うわけではなく、この製品に通電性が欲しいとのことで、無電解ニッケルめっきとなったようなのです。
1.再加工にあたり確認ポイント
再加工する際に、お客様に確認させていただいた事項があります。
- 図面を確認し、加工できる大きさなのか?
- アルミニウム材質、アルマイト皮膜の厚さ(推定値)
- アルマイトを剥離することで、寸歩が変わるが問題ないか?
(皮膜も素材と一緒に溶けるため、内径は拡大し、外径は細くなる) - アルマイトを剥離することで、艶が消える可能性があるが問題ないか?
- アルマイトを剥離することで、素地が荒れる可能性があるが問題ないか?
これら、全て問題ないとのお話しでしたので、再加工可能と判断します。
2.A2017は無電解ニッケルめっきの密着性が悪い?
無電解ニッケルめっきの前処理で、ジンケート処理と言う、亜鉛を置換めっきする工程があるのですが、その工程を1回のみの処理とするか、ダブルジンケートといい、2回ジンケート処理をおこなうかで、置換析出する亜鉛粒子の状態が大きく異なり、シングルジンケートでは、アルミニウムが亜鉛と酸素に覆われ、ダブルジンケートでは、亜鉛および酸素の他にアルミニウムも存在し、アルミニウムがジンケート皮膜の中に拡散し、その析出状態が無電解ニッケルめっきの冶金的な結合が生じ、結果的に無電解ニッケルめっきの密着性を向上させていると考えられています。
よって、ジンケート処理を確実におこなうことにより、密着性を向上させることができます。
3.アルマイトの剥離
アルマイト皮膜の剥離は、苛性ソーダにておこないます。
濃度・温度・時間により、剥離スピードにも違いがでてきますが、あまり早いと微調整ができない。遅いとなかなか剥がれないと言う状況になるため、濃度・温度・時間の管理が重要になります。
以前に、アルマイトを剥離した動画をご紹介していますので、剥離については、こちらの動画をご参照ください。
4.A2000系アルミニウムに発生するスマット
A2000系のアルミニウム合金素材をエッチングするとアルミニウム表面に発生するスマットと呼ばれる不純物があります。
これらは、A2000系の素材を作り出す際に含まれる添加物的な、金属がエッチング工程では溶解せずアルミニウム表面に残った物質になります。
通常、スマットの除去には硝酸が用いられますが、通常の硝酸濃度では、なかなか除去しきれず表面に残ってしまうことがあります。
このまま、ジンケート処理をおこなったとしても、正常なジンケート皮膜が析出しないため、スマットの除去を確実におこなう必要があります。
A2017のアルマイト皮膜を剥離した写真
5.無電解ニッケルめっき前処理
アルマイト皮膜の剥離が完了したら、治具を無電解ニッケルめっき用に交換します。
アルマイト用の治具は、チタン・アルミ製ですが、無電解ニッケルめっき用はステンレスで作成しています。
治具を交換してラッキングした製品を脱脂処理・エッチング・脱スマット・ジンケート処理1回目・硝酸・ジンケート処理2回目と進めていきます。
ここでポイントとなるのが、ジンケート処理を2度おこないます。
『2.A2017は無電解ニッケルめっきの密着性が悪い?』で書いたように密着性の向上のためにも、確実にジンケート処理をして皮膜の密着性を上げておく必要があります。
6.アルミ上への無電解ニッケルめっきの前処理
アルミニウム上へ無電解ニッケルめっきをするには、前述の通りジンケート処理が必要になってきますが、アルミニウムダイキャストや鋳造品の場合、さらに工程が変わってきます。
エッチング後のスマットが除去できない素材の場合もあり、硝フッ酸などを使用しなければならない場合もあります。
これらの工程は、無電解ニッケルめっきをおこなっている業者でも、その工程を保有しているか、していないかで、『できる』『できない』に分かれてきます。
そのため、どこでもできる表面処理ではなくなってしまうため、そのあたりの確認も必要となります。
7.無電解ニッケルめっきの析出
前処理が終わったら、無電解ニッケルめっきの析出をさせるために、めっき液へ浸漬します。
液濃度・温度・時間を設定し、時間になるまで浸漬したままとし、液流動による液攪拌をおこないます。
無電解ニッケルめっきの反応中は、微細な気泡が製品に付着するため、その気泡による未めっき部やピンホールを防止するために、液流動による攪拌をおこないます。
エアー攪拌でも問題ない場合はありますが、気泡となりやすいため液流動や振動、揺動が好ましいです。
8.無電解ニッケルめっきの仕上げ
めっきが完了したら、仕上げ剤に浸漬し耐食性を向上させます。
昔は、六価クロムが使用されていましたが、環境規制の影響もあり現在は使用することができませんので、パラフィン系の仕上げ剤にて耐食性を向上させ、乾燥して仕上がりになります。
無電解ニッケルめっき完成品
9.ベーキング処理
無電解ニッケルめっきが完成した直後に、電気炉で200~300℃で1時間ほど熱を加えることで、無電解ニッケルめっきの密着性が向上しますが、温度も高いため歪みなどができる困る製品には注意が必要です。
今回、ご紹介したようにアルミニウム上への無電解ニッケルめっきだけでも、前処理を使い分けて処理をしています。
アルミ以外でも、鉄・銅・真鍮・ステンレスなど、素材の材質が違うことで前処理が変わってきますので、一概に無電解ニッケルめっきと言っても違うめっき工程と思っていただく方が良いです。
10.動画で解説しています。
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