表面処理による機械的特性には、硬度、潤滑性、寸法精度、肉盛り性、型離れ性、低摩擦係数、
後加工性、耐衝撃性、対疲労性などがあります。
要求特性 | 表面処理の種類 | 適用例 | |
機械的 特性 |
高硬度 | 工業用クロム・無電解ニッケル・ニッケル-タングステン・ロジウム・分散ニッケル | シリンダ・ロール・各種金型・ゲージ・ベアリングなど |
潤滑性 | 工業用クロム・銀・インジウム・錫・鉛・分散ニッケル | シリンダ・ピストンリング・軸受け・シャフトなど | |
寸法精度 | 無電解ニッケル | 精密機械部品・精密金型・切削工具・シャフト・ベアリングなど | |
肉盛り性 | 工業用クロム・銅・ニッケル | ロール・軸受け・シリンダ・クランクシャフト・金型など | |
型離れ性 | 工業用クロム・分散ニッケル | 各種金型など | |
低摩擦係数 | 工業用クロム・分散ニッケル | 製紙ロール・糸送りロール・ガイドなど |
※分散ニッケルとは化学的に不溶性の微粒子を分散させニッケル金属と共析させるめっきです。
硬度
めっき皮膜の硬度は一般的に、JISで規定された微笑硬さ試験法で測定し、ヴィッカース硬度(Hv)やヌープ硬度(Hk)で表示します。ダイヤモンドの硬さは約Hv1300、工業用(硬質)クロムめっきは、Hv800~1000の範囲が用いられます。
無電解ニッケルめっきは、めっき後に400℃で熱処理すると、Hv1000の高硬度になります。
また、ニッケル皮膜中にアルミナや炭化ケイ素の微粒子を分散させた複合皮膜もHv600程度の硬さを得られますし、めっき後に熱処理を加えることにより、Sicの含有率(2~6wt%)によってHv1300~1400という高硬度を得られます。
ニッケルータングステン合金めっきも極めて高硬度を得られるめっきとして注目を集めています。
ロジウムメッキは硬度(約Hv800~1000)、耐摩耗性に優れ、コネクタやロータリースイッチなどの摺動接点用メッキとして高く評価されています。
潤滑性
潤滑性には、低摩擦係数によるもの、保油性によるもの、なじみ性に寄るものなどがあり、それぞれの使用目的に応じて適切な潤滑性の得られるめっき皮膜を選定することをオススメします。
例えば軸受けでも、三層軸受けのように潤滑性改善の目的でなじみ性を付与する必要があれば、鉛-錫(7~10%)、鉛-インジウム、鉛-錫-アンチモン、銀軸受けでは、銀の厚付けめっき上に鉛-インジウム拡散めっきをするなどの、柔らかい合金めっきが使われます。
耐摩耗性が同時に必要であれば、潤滑物質を含浸させた工業用(硬質)クロムめっきや分散ニッケルめっきが活用されます。
シリンダーライナーのように潤滑油を使用する環境下では、ポーラスな工業用(硬質)クロムめっきが保油性の面でも好ましいです。
潤滑性よ耐摩耗性を目的とした分散ニッケルめっきでの分散微粒子には、弗化黒鉛(ふっかこくえん)、二硫化モリブデンなどが用いられています。
弊社(小池テクノ)では、分散ニッケル(Ni-P-PTFE合金)めっきで下の写真のようなめっき事例もあります。
寸法精度
複雑な形状の部品に、均一な厚さの皮膜を付与することは一般的な電気めっき法では難しいです。比較的容易に均一な厚さの得られるめっき法は無電解ニッケルめっき(Ni-P合金・Ni-B合金)です。
これらの合金めっき皮膜は耐熱性や耐食性にも優れており、精度の要求される機械精密部品、自動車部品、電子部品などに多く活用されています。
もちろん、電気めっきでも、治具や補助極を工夫して電流分布を均一化することによって、膜厚の均一な皮膜を得ることができます。
弊社では、旋削ホルダーに均一で寸法精度の高い無電解ニッケル(Ni-P合金)めっきの事例、アルミ製切削カッターへの硬質アルマイトの事例もあります。
硬質アルマイト
無電解ニッケル
肉盛り性・再生
寸法補正や修理を目的とし、さらに耐摩耗性、耐食性、硬度、切削加工性などが同時に要求される場合が多いようです。
印刷用ロールやシリンダ、クランクシャフト、軸受け、金型などの修理、寸法調整には工業用(硬質)クロムめっきが活用され、0.5mmもの厚付け、あるいは、1mmといったような超厚付けめっきも行われているようです。
金型や磨耗した工具類などは修理めっきによって再生させる方法が経済的であり、寿命もはるかに延長が可能で、プラスチック用モールド金型では、工業用(硬質)クロムめっきによって5~15倍近く寿命を延長することが可能です。
印刷用銅ロール、コンダクタロールの製作には銅電鋳(銅の厚付けめっき)が使われます。
弊社(小池テクノ)では、無電解ニッケルめっきを用いて、自動車部品制作用の治具のめっき再生を行なっている実績があります。
同一治具を15回までめっき再生し、使用することで治具の作成コストを抑えることができます。
写真の部品ですが、
秘密保持のため写真はボカシを
入れております。
型離れ性
金型に要求される特性で、一般的には硬度が同時に必要とされるため、工業用(硬質)クロムめっきが活用されています。
ウレタンゴムのような型離れ性の悪い素材の金型では、工業用(硬質)クロムめっきを15μmほど施し、さらに離型剤を使用するのが普通ですが、クロムめっきの代わりに弗化黒鉛(ふっかこくえん)微粒子を分散させた無電解ニッケル-リン合金めっきを行うと離型剤なしでも離型でき金型寿命も大幅に延長することができるとの情報もあります。
低摩擦係数
すべり性とも称されます。耐摩耗性や潤滑性とも深い関連があり、製紙ロール、繊維機械の糸送りローラーやガイドなどに要求される特性として、工業用(硬質)クロムめっきが用いられていますが、より摩擦係数の小さなめっき皮膜としては、マイクロクラック中にテフロンを含浸させた工業用クロムメッキや、二硫化モリブデンを共析させた分散ニッケル-リン合金めっきが活用されています。
その他
これらの他に機械的特性として、二次加工性や退職激成、耐疲労性などがあり特に二次加工性は、メッキ後にプレス成形、熱加工などが行われる部品に要求される特性で、皮膜の柔軟性や密着性、耐熱性などと密接な関わりがあり、これらの性能はメッキ条件によってかなりの差が生じることも多いため、発注の時点で二次加工の有無を明示することが大切です。
耐衝撃性や耐疲労性は一般的に、めっきをすることで弱くなると言われていますが、理論的には強くすることも可能であり、今後の課題といえます。
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