1.アルミニウムの錆に対する誤解

「アルミニウムは錆びない」と思っている方も多いのではないでしょうか。実際には、アルミニウムも条件によっては錆び(腐食)が発生します。本記事では、アルミニウムの腐食メカニズムから対策方法まで、一般の方にも分かりやすく解説します。

2.アルミニウムが錆びにくい理由

自然の保護膜「酸化アルミニウム」

アルミニウムが空気に触れると、表面に極めて薄い酸化アルミニウムの膜(約2~10ナノメートル)が瞬時に形成されます。この膜は以下の特徴を持ちます。

  • 自己修復性:膜が傷付いても空気に触れると再生します。
  • 密着性が高い:母材から剥がれにくい。
  • 化学的安定:多くの環境で安定に働きます。

この自然の保護膜により、アルミニウムは優れた耐腐食性を発揮しているのです。

3.アルミニウムが腐食する条件

pH値による影響

酸化アルミニウム皮膜は、以下の環境で破壊されやすくなります。

酸性環境(pH 4以下)

  • 酸性雨
  • 工業地帯の大気
  • 酸性洗剤

アルカリ性環境(pH 9以上)

  • アルカリ性洗剤
  • コンクリートとの接触
  • 海水(pH 8.1-8.3程度でも長期間で影響)

アルミニウムは「両性金属」と呼ばれ、酸性・アルカリ性の両方の環境で腐食する特徴があります。特にアルカリ性環境では腐食速度が速くなるため注意が必要です。

「めっき・表面処理用語集」知りたい用語を検索。こちらで詳しく解説しています。

4.アルミニウム合金の種類と耐食性

実際に使われているアルミニウムの多くは、強度を向上させるために他の金属を添加したアルミニウム合金です。合金の種類によって耐食性が大きく異なります。

アルミニウム合金系列別特性表

合金系列 主要添加元素 強度 耐食性 主な用途 腐食の特徴
A1000系 なし(純アルミ) ★☆☆ ★★★ 電線、箔、化学装置 最も錆びにくいが、鉄分含有量で変化
A2000系 銅(Cu) ★★★ ★☆☆ 航空機部品 粒界腐食が発生しやすい
A3000系 マンガン(Mn) ★★☆ ★★☆ 建材、容器 バランスの取れた特性
A4000系 ケイ素(Si) ★★☆ ★★☆ 鋳物、溶接棒 特筆すべき耐食性なし
A5000系 マグネシウム(Mg) ★★☆ ★★☆ 船舶、車両 良好な耐食性を維持
A6000系 Mg + Si ★★☆ ★★☆ サッシ、構造材 応力腐食割れに注意
A7000系 亜鉛(Zn) + Mg ★★★ ★☆☆ 航空機、スポーツ用品 粒界腐食のリスクあり

※表は横にスクロールできます。

JIS規格アルミニウム合金の化学成分

実際のアルミニウム合金の化学成分は、JIS規格により厳密に規定されています。以下の画像は、各合金系列の詳細な化学成分を示しています。

※クリックすると拡大します。

添加元素が耐食性に与える影響

上記の化学成分表からも分かるように、添加元素の種類と含有量が耐食性に大きく影響します。

耐食性を向上させる元素

  • マグネシウム(Mg):アルミニウムより電位が低く、犠牲陽極効果で保護
  • マンガン(Mn):固溶体硬化により強度と耐食性を両立

耐食性を低下させる元素

  • 銅(Cu):アルミニウムより電位が高く、局部電池を形成
  • 亜鉛(Zn):高強度を実現するが粒界腐食のリスク増加

5.アルミニウム腐食の実例と対策

よくある腐食事例

実際の腐食事例
梱包を開封したら濡れており錆びていた状態のアルミニウム製品の実例をご覧ください。

このような腐食は、以下の条件が重なることで発生します。

  1. 梱包材での結露による腐食
    • 密閉された状態での水分による局部的な腐食
    • 対策:防湿包装、乾燥剤の使用
  2. 異種金属との接触腐食
    • 鉄やステンレス鋼との直接接触による電食
    • 対策:絶縁材の挿入、防食塗装
  3. 海岸地域での塩害
    • 塩分による孔食(ピッティング)
    • 対策:定期的な清掃、表面処理

効果的な防食対策

  1. アルマイト処理(陽極酸化処理)
    • 人工的に厚い酸化皮膜を形成(5~25μm)
    • 自然酸化膜の250~1250倍の厚さ
    • 耐摩耗性と装飾性も向上
  2. 塗装による保護
    • プライマー + 上塗り塗装
    • 化学的バリアの形成
    • 定期的なメンテナンスが必要
  3. 環境管理
    • pH値の管理(中性域での使用)
    • 湿度コントロール
    • 異種金属との分離

アルミニウムを錆びさせない方法

6.アルミニウム腐食のメカニズム(技術解説)

粒界腐食のメカニズム

高強度アルミニウム合金(A2000系、A7000系)で発生しやすい粒界腐食は、以下のプロセスで進行します。

  1. 析出物の形成:熱処理により粒界に化合物が析出
  2. 電位差の発生:母材と析出物の電位差により局部電池形成
  3. 選択的溶解:電位の低い部分(通常は母材)が優先的に溶解

孔食(ピッティング)の発生条件

塩化物イオン環境下で発生する孔食は

  • 開始電位:塩化物濃度により決定
  • 進行速度:pH、温度、溶存酸素量に依存
  • 形状:深く狭い穴状の腐食が特徴

7.まとめ:アルミニウムとの正しい付き合い方

アルミニウムは確実に「錆びない金属」ではありません。しかし、そのメカニズムを理解し適切な対策を講じることで、長期間にわたって優れた性能を発揮します。

重要なポイント

  • アルミニウムの耐食性は酸化皮膜に依存
  • 酸性・アルカリ性環境では腐食リスクが増加
  • 合金の種類により耐食性が大きく異なる
  • 適切な表面処理により飛躍的に耐食性向上

正しい知識を持ってアルミニウムを活用すれば、その軽量性、加工性、リサイクル性といった優れた特性を最大限に活かすことができるでしょう。

表面処理の問題解決します。加工可能な表面処理、お問い合わせ前にご確認ください。


関連記事







この記事の著者は

株式会社小池テクノ 代表取締役 大橋 一友

株式会社 小池テクノ 代表取締役社長
大橋 一友
毒物劇物取扱責任者
水質関係第二種公害防止管理者
特定化学物質及び四アルキル鉛等作業主任者
化学物質管理者
特別管理産業廃棄物管理責任者
危険物取扱者乙種4類